概要
イギリスは火葬率が約80%と高く、葬儀費用の高騰が社会問題化している国である。「funeral poverty(葬儀貧困)」という言葉が広く使われ、葬儀費用を支払えない遺族の問題が政策課題となっている。
2020年には競争・市場庁(CMA)が葬儀市場の本格調査を行い、価格の不透明さと競争不足を指摘。業界全体に価格開示の義務化等の改革が進められた。
葬儀の種類と選択肢
| 種類 | 内容 | 費用目安(2025年) |
|---|---|---|
| Traditional attended funeral(伝統的葬儀) | 式場での儀式+火葬または土葬 | 4,510ポンド |
| Simple attended funeral(簡素な葬儀) | 基本的な儀式+火葬または土葬 | 3,828ポンド |
| Direct cremation(直接火葬) | 遺族の立会いなし、火葬のみ | 1,628ポンド |
| Direct burial(直接土葬) | 遺族の立会いなし、土葬のみ | 1,628ポンド |
イギリスではエンバーミングは一般的ではなく、「viewing(遺体との対面)」を行わないケースも多い。
費用の相場
※ 日本円換算は2026年3月時点の為替レート(1ポンド=約190円)を参考値として使用。為替変動により金額は変わる。
葬儀費用の推移
CMAの2020年調査によれば、2008年から2018年の10年間で葬儀社の料金は68%上昇し、火葬場の料金は84%上昇した。同期間の消費者物価指数(CPI)上昇率は約25%であり、葬儀費用はインフレの2.7〜3.4倍のペースで上昇していたことになる。
葬儀の種類別費用(2025年データ)
| 種類 | 費用 | 参考: 日本円 |
|---|---|---|
| 簡素な葬儀(火葬) | 3,518ポンド | 約66.8万円 |
| 簡素な葬儀(土葬) | 4,758ポンド | 約90.4万円 |
| 伝統的な葬儀(火葬) | 4,200ポンド | 約79.8万円 |
| 伝統的な葬儀(土葬) | 5,440ポンド | 約103.4万円 |
| 直接火葬 | 1,628ポンド | 約30.9万円 |
| 直接土葬 | 1,628ポンド | 約30.9万円 |
地域による費用差
| 地域 | 平均費用 |
|---|---|
| ロンドン | 4,897ポンド |
| イーストミッドランズ・ウェストミッドランズ | 4,222ポンド |
| 南東部・イースト | 4,173ポンド |
| 南西部 | 3,892ポンド |
| 北西部 | 3,748ポンド |
| ヨークシャー・ハンバー | 3,717ポンド |
| スコットランド | 3,655ポンド |
| ウェールズ | 3,459ポンド |
| 北東部 | 3,411ポンド |
| 北アイルランド | 3,105ポンド |
ロンドンは北アイルランドより約58%高い。
法制度と手続き — CMAによる市場改革
CMA葬儀市場調査(2020年)
競争・市場庁(CMA)は2018年から葬儀市場の調査を開始し、2020年12月に最終報告書を公表した。
主な指摘:
- 葬儀社サービスと火葬場サービスの両市場が「適切に機能していない」
- 消費者は心理的に脆弱な状態で葬儀を手配するため、価格比較が困難
- 価格の不透明さが大きな問題
導入された改革:
- 葬儀社と火葬場に対する価格開示の義務化
- 契約前の事前価格情報の提供義務
- 葬儀社の財務的利害関係の開示
- 病院・介護施設・ホスピスからの紹介インセンティブ(キックバック)の禁止
プリペイド葬儀プラン規制(2022年)
2022年7月、金融行為規制機構(FCA)がプリペイド葬儀プランの規制を開始した。
- 26社が認可を受け、約160万件のプランを管理
- コールドコール(勧誘電話)の禁止
- 仲介手数料の禁止
- 金融サービス補償制度(FSCS)による消費者保護
- 金融オンブズマンサービス(FOS)への苦情申立権
火葬率の推移
イギリスは世界的に見ても火葬率が高い国の一つである。
| 年 | 火葬率 | 火葬件数 |
|---|---|---|
| 1950年 | 15.6% | — |
| 1975年 | 61.1% | — |
| 2000年 | 71.5% | — |
| 2019年 | 77.8% | 472,308件 |
| 2022年 | 79.8% | 526,632件 |
| 2024年 | 80.3% | 522,733件 |
地域差が大きく、イングランド・ウェールズは約83%であるのに対し、北アイルランドは約24%にとどまる(カトリック教徒が多く、伝統的に土葬を選好する文化的背景がある)。
公的支援制度
Funeral Expenses Payment(葬祭費用給付)
低所得者向けの葬儀費用補助制度。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支給上限 | 葬儀費用として最大1,000ポンド(約19万円) |
| その他 | 火葬料・医師証明書・遺体搬送費・死亡証明書・交通費も対象 |
| 受給要件 | ユニバーサルクレジット、所得補助、年金クレジット等の受給者 |
| 申請者 | 配偶者、死産児の親、16歳未満の子の親など |
| 申請期限 | 葬儀から6か月以内 |
| 注意点 | 故人の遺産から差し引かれる。通常、葬儀費用の全額はカバーされない |
Bereavement Support Payment(遺族支援給付)
配偶者・パートナーを亡くした方への給付。所得制限なし。
| 区分 | 一時金 | 月額給付 | 給付期間 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 高額(扶養する子がいる場合) | 3,500ポンド | 350ポンド/月 | 18か月 | 9,800ポンド |
| 標準(子なし) | 2,500ポンド | 100ポンド/月 | 18か月 | 4,300ポンド |
- 死亡から3か月以内に申請すると全額受給
- 国民保険の拠出要件あり(1975年4月6日以降の任意の1年度にClass 1またはClass 2の保険料納付実績)
- 所得審査なし(means-tested ではない)
Public Health Funeral(自治体による葬儀)
1984年公衆衛生法第46条に基づき、自治体は「適切な葬儀の手配がされていない」遺体について葬儀を手配する義務がある。
- 2022/23年度: イングランドで推定4,400件(前年度比500件増)
- 1日あたり約12件(英国全体)
- 自治体の年間支出: 約600万ポンド
- 最も多い理由: 遺族が葬儀費用を支払えない(62%)
- 多くは無参列の直接火葬
funeral poverty(葬儀貧困)
イギリスでは「funeral poverty」が社会問題として認識されている。
- 5人に1人が葬儀費用を支払えないとされる
- 平均的な不足額: 1件あたり約1,200ポンド
- 不足額の全国合計: 年間約1億3,100万ポンド
- 2004年から2024年の20年間で葬儀費用は約80%上昇
Funeral Expenses Paymentの上限1,000ポンドに対し、簡素な葬儀でも3,500ポンド以上かかるため、低所得世帯にとって差額の負担が大きい。葬儀費用のために借金をするケースや、自治体に葬儀を委ねるケースが増加している。
日本との主な違い
| 項目 | イギリス | 日本 |
|---|---|---|
| 火葬率(2024年) | 80.3% | 99.9%以上 |
| 葬儀費用(簡素な葬儀) | 3,828ポンド(約72.7万円) | 家族葬: 約105.7万円 |
| 低所得者向け支援 | Funeral Expenses Payment(最大1,000ポンド) | 葬祭費(1〜7万円)※所得制限なし |
| 遺族給付 | Bereavement Support Payment(最大9,800ポンド) | 遺族年金(月額) |
| 行政による葬儀 | Public Health Funeral(年間4,400件) | 行旅死亡人等の制度 |
| 市場規制 | CMAによる価格開示義務化(2020年〜) | なし |
| プリペイドプラン | FCA規制下(2022年〜) | 互助会(経済産業省の認可) |
→ 6カ国の比較は葬儀費用の国際比較表を参照
出典・公式情報リンク
出典: GOV.UK「Funeral Expenses Payment」(2026年3月閲覧)
出典: GOV.UK「Bereavement Support Payment」(2026年3月閲覧)
出典: CMA「Funerals market investigation — Final report」(2026年3月閲覧)
出典: FCA「FCA regulation boosts consumer protection in funeral plans market」(2026年3月閲覧)
出典: The Cremation Society「Progress of Cremation — United Kingdom」(2026年3月閲覧)
出典: LGA「Public Health Funerals 2024 Research Report」(2026年3月閲覧)
出典: ONS「Death registrations summary statistics, England and Wales: 2024」(2026年3月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年3月31日 |
| 調査範囲 | イギリスの葬儀費用(CMA報告書・Sun Life調査)、公的支援制度(Funeral Expenses Payment・Bereavement Support Payment)、火葬率の推移、CMA市場改革、FCA規制、funeral poverty |
| 主な情報源 | GOV.UK、CMA、FCA、ONS、The Cremation Society、LGA |
| 未調査項目 | 宗教別の葬儀慣習の違い、自然葬(woodland burial)の動向、スコットランド独自の制度詳細 |