調査の動機
葬儀費用を調べると、「平均100万円前後」「200万円近い」といった異なる数字が出てくる。どれが正しいのかと思い、まず政府統計に「実際に葬儀をした人が払った全国平均」があるかを探した。
結論からいうと、その条件をそのまま満たす政府統計は見つからなかった。国が公表しているのは、主に葬儀業者側の売上高・取扱件数と、基本条件を定めたサービスの都市別価格である。どちらも有用だが、喪家が支払った費用の平均とは意味が違う。
この記事では、政府統計と各調査主体が公表する原典を「公式データ」と呼ぶ。ただし、利用許諾が必要な民間調査の個別数値は転載せず、調査設計と読み方だけを比較した。
調べた過程
確認したのは次の4系統。
- 葬儀業者側の統計 — 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」
- 基本条件を定めた場合の価格 — 総務省統計局「小売物価統計調査」
- 葬儀を経験した人への調査 — 鎌倉新書「お葬式に関する全国調査」
- 消費者団体の調査 — 日本消費者協会「葬儀に関するアンケート調査」
検索結果や別サイトの引用ではなく、統計表、調査票、調査概要、利用規約まで原典をたどった。すると、同じ「葬儀費用」でも、測っている対象、平均か中央値か、含む費目がそろっていないことがわかった。
発見
企業統計では2024年121.5万円、別統計では2020年91.1万円
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」には、葬儀業の売上高と取扱件数がある。両者を同じ年で割り、調査対象企業の「売上高÷取扱件数」を計算した。
| 年 | 売上高 | 取扱件数 | 売上高÷取扱件数 |
|---|---|---|---|
| 2019年 | 6,000.63億円 | 446,724件 | 134.3万円 |
| 2020年 | 5,135.08億円 | 437,490件 | 117.4万円 |
| 2021年 | 5,157.51億円 | 458,399件 | 112.5万円 |
| 2022年 | 5,607.04億円 | 496,808件 | 112.9万円 |
| 2023年 | 5,944.85億円 | 501,533件 | 118.5万円 |
| 2024年 | 6,108.99億円 | 502,921件 | 121.5万円 |
※「売上高÷取扱件数」は、e-Statの公表値をもとに終活メモが計算。小数第2位を四捨五入した。
2024年は1件当たり121.5万円となる。ただし、これは国が「葬儀1件の平均費用」として公表した数字ではない。
調査対象は、業界全体の年間売上高のおおむね7割をカバーする売上高上位の企業である。取扱件数は葬儀一式の請負件数で、法事・法要は含まない。売上高は消費税込みで、一般葬・社葬・家族葬などに加え、葬儀の施行に直接関係する霊柩運送、生花、返礼品、仕出し料理などを含む。
つまり121.5万円は、家計側の平均支払額ではなく、調査対象となった比較的大きな葬儀会社の葬儀業務売上を1件当たりに直した参考値と読むのが適切である。
さらに、対象範囲の異なる「令和3年経済センサス‐活動調査」では、2020年の葬儀業の売上高は1兆2,140.39億円、年間取扱件数は1,332,485件。機械的に割ると1件当たり約91.1万円になる。統計表の時間軸は2021年だが、売上高と取扱件数は2020年1年間の値である。
同じ政府統計でも、対象となる事業所、売上高の定義、集計方法が違えば、121.5万円と91.1万円という差が出る。前者は売上上位企業を継続的に見る動態統計、後者は経済センサスの産業別集計である。異なる調査の商を「葬儀費用の増減」として比べることはできない。
47都市の掲載価格は60.2万〜194.5万円
総務省統計局の「小売物価統計調査」には、「葬儀料」という調査品目がある。ここでは、比較の基準となる「基本銘柄」を細かく定めて都市ごとの価格を調べている。
主な条件は、大人の仏教式、親族20人、参列者25人、民営斎場を2日間使用する葬儀。寝台車、ドライアイス、布棺、生花祭壇、供花、遺影、会葬御礼、霊柩車、マイクロバス、骨壺、通夜振る舞い、精進落とし、飲料、サービス料、人件費まで指定されている。
ただし、基本銘柄の出回りが少ない都市では、その地域で出回りの多い別の銘柄を調べる。47都道府県庁所在市のうち、徳島市、高松市、高知市、福岡市、熊本市、宮崎市、那覇市の7市には、この市町村銘柄の注記が付いている。
2025年の年平均価格から47都道府県庁所在市を抽出すると、掲載価格は次の範囲になった。
| 集計項目 | 金額 |
|---|---|
| 47都市の単純平均 | 125.1万円 |
| 47都市の中央値 | 127.8万円 |
| 最低(那覇市) | 60.2万円 |
| 最高(京都市) | 194.5万円 |
| 最高÷最低 | 約3.2倍 |
※総務省統計局「小売物価統計調査」2025年結果から、都道府県庁所在市を終活メモが抽出・集計。東京都は東京都区部を使用した。市町村銘柄を含むため、平均・中央値・最高最低は仕様差を含む掲載価格の集計である。
一部の都市を並べると、掲載価格には大きな幅がある。
| 都市 | 2025年の年平均価格 |
|---|---|
| 那覇市(市町村銘柄) | 60.2万円 |
| 広島市 | 64.8万円 |
| 奈良市 | 86.2万円 |
| 東京都区部 | 144.2万円 |
| 札幌市 | 162.2万円 |
| 宮崎市 | 171.8万円 |
| 京都市 | 194.5万円 |
この価格は、実際の葬儀を無作為に集めた支払額ではない。基本銘柄または市町村銘柄について、市内の調査対象事業所の価格を追ったものだ。したがって、最低と最高の差をそのまま純粋な地域格差とはみなせない。また、家族葬や一日葬、直葬など実際の形式構成も反映しない。
また、指定条件には宗教者への謝礼と火葬料が入っていない。火葬料は同じ調査の別品目、お布施はお布施・戒名の費用相場で確認する必要がある。「葬儀料」という名称だけを見て、葬儀後まで含む総支出だと考えるとずれが生じる。
公営火葬料は中央値9,000円、9都市は0円
小売物価統計調査では、公営火葬場を運営する自治体の居住者が支払う大人の火葬料を、別の「葬儀料」として調べている。
2025年の47都道府県庁所在市では、中央値は9,000円で、0円の都市が9市あった。最高は東京都区部の9万円だが、基本銘柄の公営火葬場ではなく、「基本銘柄の出回りが少ないため、市町村の実情に即した銘柄」とする注記が付いている。東京都区部を除く最高は、鳥取市と那覇市の2万5,000円だった。
この差は、葬儀本体の価格だけで最終支払額を見積もれないことを示している。火葬場が公営か民営か、故人が運営自治体の住民かどうかでも金額が変わる。健康保険から受け取れる給付は、自治体別の葬祭費・埋葬料比較に分けて整理している。
民間調査の数字は、平均か中央値かを先に見る
実際に葬儀を経験した人の支払額を知るには民間調査が参考になる。ただし、数字を横一列に並べる前に、少なくとも次の点を確認する必要がある。
| 確認項目 | 数字が変わる理由 |
|---|---|
| 平均・中央値 | 高額な少数事例の影響が違う |
| 調査対象 | 全国か地域限定か、喪主経験者か希望者かで違う |
| 葬儀形式 | 一般葬・家族葬・一日葬・直葬の構成比で変わる |
| 費用範囲 | 飲食、返礼品、お布施、初七日、火葬料の扱いが違う |
| 集計単位 | 喪家の支払額か、事業者の売上高かで違う |
鎌倉新書の2026年調査は全国の喪主等を対象にし、最新回では中央値を採用している。2024年に公表された平均値と、そのまま増減比較はできない。また、同社は調査データの利用に原則として事前申請を求めているため、この記事では個別数値を掲載していない。
日本消費者協会の2022年報告書は有料で、商用ウェブサイトへの利用には事前許諾と利用料が必要である。生命保険文化センターの解説は鎌倉新書の調査を再掲したもので、独立した別調査として数えない。全日本葬祭業協同組合連合会の2022年調査は希望する葬儀形式を尋ねた意識調査で、実際の費用調査ではない。
「全国平均」は1つの数字ではなかった
調べたデータを、答えられる問いごとに整理するとこうなる。
| データ | 答えられる問い | 答えられない問い |
|---|---|---|
| 葬儀業の売上高÷取扱件数 | 調査対象企業・事業所の1件当たり売上 | 喪家が払った全国平均 |
| 小売物価統計の葬儀料 | 基本銘柄・市町村銘柄の都市別価格 | 実際に選ばれた葬儀の平均、純粋な地域格差 |
| 喪主経験者への調査 | 回答者が経験した費用の代表値 | 請求書で確認した全国民の平均 |
| 希望形式の意識調査 | 将来どの形式を望むか | 実際の費用・実施率 |
予算を考えるときは、まず一般葬・家族葬・一日葬・直葬の費用比較で形式を分ける。そのうえで、見積書に飲食、返礼品、火葬料、お布施が含まれるかを確認する方が、「全国平均」1つに合わせるより現実的である。
急な支払いで預金の引き出しが必要になる場合は、死亡後に凍結された銀行口座と預貯金の仮払い制度も確認しておきたい。
まとめ
調べてわかったことは3つ。
- 政府統計に、喪家の実支払額をそのまま示す全国平均はない
- 企業統計を1件当たりに直すと91.1万〜121.5万円だが、調査範囲が違い、消費者の平均費用でもない
- 2025年の47都市の掲載価格は60.2万〜194.5万円だが、市町村銘柄による仕様差も含む
葬儀費用の数字がばらばらなのは、必ずしもどれかが間違っているからではない。事業者の売上、基本銘柄・市町村銘柄の価格、経験者の平均・中央値という、別のものを同じ「葬儀費用」と呼んでいることが大きい。
金額を見るときは、数字の大きさより先に「誰を調べたか」「平均か中央値か」「何を含むか」を確認する。これが、葬儀費用の公式データを比較して得た最も実用的な結論だった。
出典・公式情報リンク
出典: e-Stat「葬儀業の売上高、取扱件数、事業所数及び従業者数 年次・実数」(2026年8月閲覧)
出典: e-Stat「令和3年経済センサス‐活動調査 冠婚葬祭業の事業所数・売上・取扱件数」(2026年8月閲覧)
出典: 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査 調査の概要」(2026年8月閲覧)
出典: 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査 葬儀業の調査票・記入注意」(2026年8月閲覧)
出典: 総務省統計局「小売物価統計調査年報 2025年」(2026年8月閲覧)
出典: e-Stat「小売物価統計調査 2025年・表32」(2026年8月閲覧)
利用条件: 鎌倉新書「第7回お葬式に関する全国調査(2026年)」・調査データ提供利用規約(2026年8月閲覧)
利用条件: 日本消費者協会「葬儀に関するアンケート調査」・調査報告書等の利用許諾要領(2026年8月閲覧)
出典: 全日本葬祭業協同組合連合会「お葬式に関する意識調査」(2026年8月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年8月1日 |
| 調査範囲 | 葬儀費用に関する政府統計・全国調査・調査定義・利用条件 |
| 主な情報源 | e-Stat、経済産業省、総務省統計局、各調査主体の原典 |
| 独自集計 | 売上高÷取扱件数、47都道府県庁所在市の平均・中央値・最小・最大 |
| 未調査項目 | 利用許諾が必要な民間調査の個別数値(許諾取得後に確認・追記) |