調査の動機
「相続税は資産家だけの話」「うちには関係ない」。相続の話題になると、こういう反応をよく聞く。
相続税の計算方法と節税対策をまとめたとき、国税庁統計の課税割合を確認した。最新の令和6年分では10.4%で、初めて1割を超えている。この全国値の中身を見ていく。
2015年に基礎控除が大幅に引き下げられたうえ、都市部と地方では課税割合が異なる。この「10.4%」という数字の中身を掘り下げた。
調べた過程
まず国税庁が公表する「相続税の申告事績の概要」を確認した。これは、その年に亡くなった方のうち相続税の課税対象になった人数と割合をまとめた統計。2026年8月1日時点の最新は、2025年12月公表の令和6年分(2024年)。
次に、財務省の「相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料」で、基礎控除改正前後の課税割合の長期推移を確認した。
地域差の例として、東京国税局が公表する東京都と同局管内の申告事績を確認した。
発見
全国の課税割合は10.4% — 初めて1割超
令和6年分(2024年)の統計によると、年間の死亡者数160万5,378人に対して、相続税の課税対象となった被相続人は16万6,730人。課税割合は**10.4%**で、初めて1割を超えた。
| 項目 | 令和6年分(2024年) |
|---|---|
| 死亡者数 | 1,605,378人 |
| 課税対象被相続人数 | 166,730人 |
| 課税割合 | 10.4% |
| 課税価格の合計 | 23兆3,846億円 |
| 申告税額の合計 | 3兆2,446億円 |
| 課税対象被相続人1人当たり課税価格 | 1億4,025万円 |
| 課税対象被相続人1人当たり税額 | 1,946万円 |
全国平均では、すでに約10人に1人が課税対象となっている。
2015年の基礎控除引き下げで課税対象は約2倍に
この「約10%」という数字は、昔からそうだったわけではない。
平成26年(2014年)まで、課税割合は4%台で推移していた。それが平成27年(2015年)に一気に8.0%へ跳ね上がった。原因は、2015年1月1日に施行された基礎控除の引き下げ。
| 改正前(〜2014年) | 改正後(2015年〜) | |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人数 | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 |
| 配偶者+子2人の場合 | 8,000万円 | 4,800万円 |
配偶者と子ども2人の3人家族なら、基礎控除は8,000万円から4,800万円へ、3,200万円下がった。課税割合は改正前の2014年4.4%から、改正年の2015年8.0%へ大きく上昇した。
課税割合の推移 — じわじわ上がり続けている
基礎控除引き下げ後も、課税割合は年々上昇を続けている。
| 年分 | 課税割合 |
|---|---|
| 平成26年(2014年) | 4.4% |
| 平成27年(2015年) | 8.0% |
| 平成28年(2016年) | 8.1% |
| 令和4年(2022年) | 9.6% |
| 令和5年(2023年) | 9.9% |
| 令和6年(2024年) | 10.4% |
統計から課税割合の上昇は確認できるが、この表だけで地価・金融資産・死亡者の財産構成など個別要因の寄与までは判定できない。
東京では約5人に1人が課税対象
全国平均10.4%という数字は、地域によって大きく異なる。
令和6年分の東京国税局公表値では、東京都の死亡者14万329人に対し、課税対象被相続人は2万8,085人で、課税割合は20.0%。申告税額は9,186億円、課税対象被相続人1人当たり税額は3,271万円だった。
東京・神奈川・千葉・山梨を合わせた東京国税局管内は課税割合16.2%、課税対象被相続人1人当たり税額2,670万円。全国値だけでなく、被相続人の住所地を管轄する国税局の公表資料も確認する必要がある。
相続財産の3分の1は現金預貯金
課税対象となった相続財産の内訳も確認した。
| 財産の種類 | 構成比 |
|---|---|
| 現金・預貯金等 | 34.9% |
| 土地 | 30.2% |
| 有価証券 | 17.8% |
| 家屋 | 4.8% |
| その他 | 12.3% |
令和6年分では現金・預貯金等が34.9%で最大、土地が30.2%、有価証券が17.8%となった。
納税額が0円でも申告が必要なケース
課税価格の合計が基礎控除以下なら原則として申告不要。ただし、基礎控除を超えた後に申告を要する特例・税額軽減を使って納税額が0円となるケースは別。
配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)や小規模宅地等の特例(居住用宅地330m2まで80%減額)は、申告書を提出して初めて適用される。これらの制度を使った結果、税額が0円になる場合でも、申告自体は必要となる。
したがって、「納付税額が0円」と「申告不要」は同じではない。
→ 相続税の計算方法や控除の詳細は相続税の計算方法と節税対策を参照
まとめ
調べてみて見えたのは、「相続税は関係ない」とは言い切れない現実だった。
- 全国平均の課税割合は10.4%で、2015年の基礎控除引き下げ前(4.4%)の2倍以上
- 東京都では20.0%、5人に1人が課税対象
- 全国の課税割合は令和6年分で初めて1割を超えた
- 都市部の不動産を持つ家庭では、基礎控除を超えるケースが増えている
- 相続財産に占める現金・預貯金の比率が土地を逆転した
「うちは大丈夫」と思っていても、都市部に自宅を持つ家庭なら、基礎控除を超える可能性は十分にある。少なくとも、自分の家庭の相続財産が基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)を超えるかどうか、一度は確認しておく価値がありそうだ。
相続手続き全体の流れは相続の基本手続き、申告の期限やタイムラインは死後手続きのタイムラインを参照。
出典・公式情報リンク
出典: 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(2026年8月閲覧)
出典: 財務省「相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料」(2026年8月閲覧)
出典: 東京国税局「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(2026年8月閲覧)
出典: 国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(平成27年1月1日施行)」(2026年8月閲覧)
出典: 政府広報オンライン「相続税はいくらから?基礎控除とは?」(2026年8月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年8月1日 |
| 調査範囲 | 相続税の課税割合の推移(平成26年〜令和6年)、全国・東京都・東京国税局管内の申告事績、相続財産の構成比、2015年基礎控除改正の影響 |
| 主な情報源 | 国税庁(申告事績の概要)、財務省(基本的計数に関する資料)、政府広報オンライン |
| 未調査項目 | 全47都道府県の令和6年分個別課税割合、課税価格帯別の被相続人数分布、税務署単位の課税割合詳細 |