概要
相続は、被相続人(亡くなった方)の死亡により開始する(民法第882条)。預貯金・不動産・有価証券などの財産だけでなく、借金などの負債も相続の対象となる。
相続手続きには複数の期限がある。死亡届(7日以内)から始まり、相続放棄の判断(3か月以内)、準確定申告(4か月以内)、相続税の申告・納付(10か月以内)と段階的に進む。2024年4月からは相続登記の申請も義務化された(3年以内)。
法定相続人の範囲は民法で定められており、配偶者は常に相続人となり、血族は第1順位(子)、第2順位(父母)、第3順位(兄弟姉妹)の順に相続権をもつ。
選択肢一覧
相続が発生した際、相続人には以下の選択肢がある。
- 単純承認: 財産も負債もすべて引き継ぐ(何もしなければ自動的に単純承認となる)
- 相続放棄: 財産も負債もすべて放棄する。家庭裁判所への申述が必要(民法第915条、3か月以内)
- 限定承認: 相続財産の範囲内で負債を引き継ぐ。相続人全員での申述が必要(民法第922条、3か月以内)
遺産の分け方については以下の方法がある。
- 遺言による指定: 遺言書がある場合、原則としてその内容に従う。詳細は遺言書の種類と書き方を参照
- 遺産分割協議: 相続人全員の合意により分割方法を決める
- 遺産分割調停: 協議がまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てる
- 遺産分割審判: 調停でも解決しない場合、家庭裁判所が審判で決定する
費用の相場
相続手続きを自分で行う場合の実費と、専門家に依頼する場合の費用目安は以下のとおり。
自分で手続きする場合の実費
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 戸籍謄本の取得 | 1通450円 |
| 除籍謄本・改製原戸籍の取得 | 1通750円 |
| 不動産登記の登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% |
| 相続放棄の申述費用(収入印紙) | 800円 |
| 遺言書の検認(収入印紙) | 800円 |
専門家に依頼する場合の費用
| 依頼先 | 費用の目安 | 主な依頼内容 |
|---|---|---|
| 税理士 | 遺産総額の0.5〜1%程度 | 相続税の申告 |
| 司法書士 | 5万〜15万円程度 | 不動産の相続登記 |
| 弁護士 | 10万〜30万円程度 | 遺産分割協議書の作成、紛争対応 |
| 行政書士 | 3万〜10万円程度 | 戸籍収集、遺産分割協議書の作成 |
基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)以下であれば相続税の申告は不要となるため、税理士費用はかからない。
手続きの流れ
相続手続きは以下のタイムラインに沿って進める。
死亡後7日以内
- 死亡届の提出: 死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡地・本籍地・届出人の住所地いずれかの市区町村役場に提出する(戸籍法第86条)。死亡診断書(または死体検案書)を添付する
- 火葬許可証の取得: 死亡届と同時に火葬許可申請書を提出する
死亡後14日以内
- 年金受給停止届の提出: 国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内に届出。遺族年金の請求手続きについては遺族年金・死亡一時金・寡婦年金の手続きを参照
- 健康保険の資格喪失届: 国民健康保険は14日以内に市区町村へ届出
- 世帯主変更届: 世帯主が亡くなった場合、14日以内に届出
3か月以内
- 相続放棄・限定承認の判断: 家庭裁判所に申述する場合の期限。何もしなければ単純承認となる
- 遺言書の有無を確認: 自筆証書遺言は家庭裁判所での検認が必要。公正証書遺言は公証役場で検索可能。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は検認不要。遺言書の種類・作成方法は遺言書の種類と書き方を参照
4か月以内
- 準確定申告: 故人に確定申告が必要な所得があった場合、相続人が故人の所得税を申告・納付する
10か月以内
- 相続税の申告・納付: 遺産総額が基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合に必要。被相続人の住所地を管轄する税務署に申告する。計算方法の詳細は相続税の計算方法と節税対策を参照
3年以内(相続登記)
- 不動産の相続登記: 2024年4月1日から義務化。相続により不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請が必要。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となる(不動産登記法第76条の2)
相続した不動産が空き家になる場合の売却・解体・活用の選択肢については「実家じまい・空き家の費用と手続き」を参照。
主な必要書類
| 手続き | 主な必要書類 |
|---|---|
| 死亡届 | 死亡診断書(死体検案書) |
| 相続放棄 | 被相続人の戸籍謄本、申述人の戸籍謄本 |
| 相続税申告 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、遺産分割協議書、各種財産の評価資料 |
| 相続登記 | 被相続人の戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書 |
| 預貯金の解約・名義変更 | 金融機関所定の届出書、被相続人の戸籍謄本一式、遺産分割協議書 → 詳細は銀行口座の凍結・名義変更の手続きを参照 |
自治体の支援制度
相続手続きそのものに対する自治体の直接的な補助金制度は一般的にない。ただし、以下のような無料相談窓口を設けている自治体が多い。
- 自治体の無料法律相談: 多くの市区町村で弁護士による無料法律相談(予約制・30分程度)を実施している。相続に関する相談も対象
- 法テラス(日本司法支援センター): 収入・資産が一定以下の方を対象に、弁護士・司法書士費用の立替制度を提供。相続関連の手続きも対象
なお、死亡に伴い国民健康保険から支払われる葬祭費や、健康保険からの埋葬料については、各葬儀形式の記事(一般葬、家族葬など)を参照。
注意点・よくあるトラブル
- 相続放棄の期限超過: 3か月の熟慮期間を過ぎると原則として相続放棄できなくなる。判断に時間がかかる場合は、家庭裁判所に期間伸長の申立てが可能
- 遺産分割協議の長期化: 相続人全員の合意が必要なため、1人でも反対すると協議がまとまらない。所在不明の相続人がいる場合は不在者財産管理人の選任が必要
- 相続登記の義務化への対応: 2024年4月1日より前に発生した相続も対象。2027年3月31日までに登記申請が必要
- 名義預金の指摘: 被相続人が家族名義で管理していた預金は、税務調査で相続財産と認定される可能性がある
- 相続税の延滞税: 申告期限(10か月)を過ぎると延滞税が加算される。無申告の場合は無申告加算税も発生する
- 生命保険金の取り扱い: 死亡保険金は民法上の相続財産ではないが、相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象となる。詳細は生命保険・医療保険の手続きを参照
なお、フランスでは子の遺留分(réserve héréditaire)が日本より厳格に保護されており、子が3人以上いる場合は遺産の3/4が遺留分として確保される(日本では法定相続分の1/2)。詳しくはフランスの葬儀・埋葬・相続制度を参照。
調べてみて気づいたこと
相続手続きの全体像を調べてみると、「期限の違い」が最も混乱しやすいポイントだとわかった。相続放棄は3か月、準確定申告は4か月、相続税申告は10か月、相続登記は3年。それぞれ届出先も異なり(家庭裁判所・税務署・法務局)、一元的に案内してくれる窓口がない。
2024年4月に施行された相続登記の義務化は大きな変更点。正当な理由なく3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になる。従来は登記しなくても実質的なペナルティがなかったため、未登記のまま放置されている不動産が全国に多数存在する。この義務化には遡及効があり、施行前に発生した相続についても3年以内(2027年3月末まで)に登記が必要。
法定相続情報一覧図の制度は、戸籍謄本の束を何度も提出する手間を省ける仕組みとして実用的。法務局で一度作成すれば、各手続き先に戸籍謄本の代わりに使える。
出典・公式情報リンク
- 出典: 法務省「相続登記の申請義務化について」(2026年3月閲覧)
- 出典: 法務局「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)」(2026年3月閲覧)
- 出典: 国税庁「No.4102 相続税がかかる場合」(2026年3月閲覧)
- 出典: 国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」(2026年3月閲覧)
- 出典: 政府広報オンライン「相続税はいくらから?基礎控除とは?」(2026年3月閲覧)
- 出典: 政府広報オンライン「不動産の相続登記義務化!」(2026年3月閲覧)
- 出典: e-Gov法令検索「民法」(2026年3月閲覧)
- 出典: e-Gov法令検索「戸籍法」(2026年3月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026-03-24 |
| 調査範囲 | 死亡届〜相続税申告の基本手続き、相続登記義務化 |
| 主な情報源 | 法務省、法務局、国税庁、政府広報オンライン、e-Gov法令検索 |
| 未調査項目 | 遺留分侵害額請求の詳細、事業承継税制、農地・山林の相続特例、成年後見制度との関連 |