概要
動物愛護管理法第7条第4項は、所有者に、できる限り動物が命を終えるまで適切に飼養するよう努めることを求めている。飼い主が死亡、入院、認知症等で世話をできなくなった後の引受人と費用を、生前に決めておくことが重要になる。
環境省の令和6年度(2024年度)集計では、自治体による犬猫の引取りは合計39,409頭、殺処分は合計6,830頭だった。ただし、この統計から飼い主の死亡・入院を理由とする頭数は分からない。自治体の引取りは緊急避難として位置付けられ、相当な理由がない申出は拒否される場合があるため、「最後は自治体が必ず引き取る」とは考えない。
通称「ペット信託」は法律上の固有の制度名ではなく、信託、遺言、贈与契約等を使って、人や法人に飼育と費用管理を担ってもらう設計の総称として使われる。ペット自身に金銭を相続させるのではなく、飼育を担う人への給付、費用管理、監督、代替の引受人を組み合わせる。
※ この記事は一般情報であり、個別の法律・税務助言ではない。契約案は弁護士、税理士、公証人等の適切な専門家と確認する。
選択肢一覧
| 方法 | 効力発生時期 | 費用の確認先 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 信託を使う設計 | 契約内容により生前から | 契約作成、財産管理、税務、飼育の各費用を個別確認 | 受託者・飼育者・監督者の権限と代替者を明記する |
| 負担付遺贈 | 死亡時 | 遺言書作成費用と飼育費を確認 | 受遺者が遺贈を放棄する可能性がある |
| 負担付死因贈与 | 死亡時 | 契約・公正証書・飼育の費用を確認 | 生前の入院等には別の備えが必要。撤回可能性は個別確認する |
| 生前の飼育委託 | 契約で定める時 | 飼育、医療、緊急搬送等を確認 | 長期化、引受人の事情変更、契約終了時を決める |
| 自治体・民間団体への相談 | 個別判断 | 各窓口・団体に確認 | 引取りが保証される制度ではない。譲渡方針や飼育環境も確認する |
信託を使う設計
信託を使う場合は、家族信託(民事信託)と同様に、信託法に基づく役割を設計する。財産管理をする受託者と、実際に飼育する人が同一とは限らない。
| 関係者 | 役割 | 確認事項 |
|---|---|---|
| 委託者 | 信託を設定する飼い主 | いつ、どの財産を信託するか |
| 受託者 | 信託財産を管理する | 支出権限、帳簿、報告、後継受託者 |
| 受益者 | 信託行為に基づく受益権を持つ | 誰をどの条件で指定するか |
| 飼育者 | 実際に動物を飼育する | 医療方針、住環境、報酬、代替者 |
| 信託監督人 | 受託者を監督する(任意) | 報告頻度、交代権限、報酬 |
契約で開始条件を定めれば、死亡前の入院等に備える設計も可能である。一方、受託者の権限、飼育者への支払条件、監督、会計、終了時の残余財産、税務を整合させる必要があり、名称だけで機能が決まるものではない。
負担付遺贈
遺言書に、財産の遺贈とペットの飼育という負担を組み合わせる方法。民法第1002条は、受遺者が遺贈の目的価額を超えない限度で負担を履行する責任を負うと定める。
受遺者は遺贈を放棄できる(民法第986条)。事前に本人の承諾を得て、予備の引受人も決める。負担を履行しない場合の対応は民法第1027条を踏まえて遺言書に反映する。
負担付死因贈与
贈与者の死亡で効力を生じる贈与契約(民法第554条)に飼育条件を組み合わせる方法。双方で合意して作るため、引受意思と条件を事前に確認できる。
ただし、死因贈与の撤回を一律に「困難」とは言えない。契約条項、履行状況、遺贈に関する規定の準用を含む判例上の扱いを、個別に専門家へ確認する。死亡後に効力を生じる契約だけでは、入院・認知症時の飼育を直接カバーしない。
費用の見積もり方
「ペット信託」だけを対象にした公的な全国費用統計は確認できない。古い一律の相場表ではなく、次の内訳を分けて見積もる。
| 区分 | 確認する内容 |
|---|---|
| 飼育 | 現在の食費、日用品、保険、定期診療、投薬、トリミング等の実績 |
| 予備費 | 高齢化や持病、緊急診療、引越し、一時預かりの可能性 |
| 法的手続 | 相談、契約書・遺言書、公正証書、登記等の要否と報酬 |
| 管理 | 口座・帳簿、受託者や監督者の報酬、税務申告の要否 |
| 終了時 | ペット死亡時の火葬・返骨、残余財産の帰属 |
公証人手数料は2025年10月に改定されている。公正証書を使う場合は、古い定額情報ではなく、日本公証人連合会の現行表と公証役場の案内で確認する。遺言書については遺言書の種類と書き方を参照。
手続きの流れ
Step 1: 現在の飼育情報を記録する
- 個体識別情報、マイクロチップ登録
- かかりつけ動物病院、持病、投薬、ワクチン
- 食事、散歩、生活環境、苦手なこと
- 毎月・毎年・臨時の支出実績
Step 2: 引受人と代替者の意思を確認する
住居の規約、同居家族の同意、先住動物、経済状況を確認する。第一候補が対応できなくなった場合の第二候補と、一時預かり先も決める。
Step 3: 法的な方法と役割を選ぶ
死亡前からの備えが必要か、財産管理者と飼育者を分けるか、監督者が必要かを整理する。契約・相続・信託・税務のどこまでを誰が扱うかを確認し、必要に応じて弁護士、税理士、公証人等へ相談する。資格ごとに扱える業務が異なるため、サービス名だけで選ばない。
Step 4: 文書と資金を整える
飼育条件、支払方法、報告、引受人の交代、ペット死亡時、契約終了、残余財産を文書化する。資金は通常の生活資金と区別し、過不足が出た場合の扱いも決める。
Step 5: 関係者へ共有し、見直す
エンディングノートには契約書の保管場所、引受人、動物病院等を記す。引受人の住所、健康、家族構成、ペットの状態は変わるため、少なくとも定期的に再確認する。
自治体・民間団体への相談
ペットの飼育費や信託設定費を全国一律に補助する国制度は、今回確認した公的情報には見当たらなかった。自治体によって相談・一時預かり・譲渡支援の有無が異なるため、住所地の動物愛護担当へ早めに確認する。
都道府県等は、動物愛護管理法第35条に基づく犬猫の引取り窓口を設けている。ただし、犬猫等販売業者からの申出、繰り返しの申出、繁殖制限の助言に従わない場合など、環境省令で定める「引取りを求める相当の事由がない」場合は拒否できる。死亡・入院時の運用、手数料、必要書類、緊急連絡先は自治体ごとに確認する。
引取り後の返還・譲渡・殺処分の結果は個体と自治体の状況により、譲渡は保証されない。まず親族・友人、かかりつけ動物病院、自治体、登録団体等と複数の引受経路を準備する。
民間団体や事業者を利用するときは、公的な全国価格統計がないことを前提に、次を確認する。
- 飼育場所を見学できるか
- 飼育記録・会計報告の方法
- 医療方針と緊急時の連絡
- 前払い金の分別管理と返金条件
- 事業停止・災害・引受不能時の移管先
- ペット死亡時と残金の取扱い
注意点
- 口約束にしない: 引受人の役割、開始条件、費用、交代を文書にする
- 一人に集中させない: 飼育、財産管理、監督の相互確認ができる設計を検討する
- 資金だけで解決しない: 引受人の住環境と継続意思を定期的に確認する
- 遺棄しない: 愛護動物の遺棄は動物愛護管理法第44条の罰則対象
- 他の備えと接続する: おひとりさまの場合は死後事務委任契約等との役割分担も確認する
調べてみて気づいたこと
大切なのは商品名ではなく、①実際の飼育者、②財産管理者、③監督する人、④最初の引受人が対応できない場合の代替者、⑤資金が余る・足りない場合の処理を文書でつなぐことである。信託や遺贈を作っても、飼育者本人の継続意思と現実の飼育環境を定期的に確認する必要がある。
出典・公式情報リンク
出典: 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律」(2026年8月閲覧)
出典: 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(2026年8月閲覧)
出典: e-Gov法令検索「動物の愛護及び管理に関する法律」(2026年8月閲覧)
出典: e-Gov法令検索「民法」(2026年8月閲覧)
出典: e-Gov法令検索「信託法」(2026年8月閲覧)
出典: 日本公証人連合会「公証人手数料令の改正について」(2026年8月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年8月1日 |
| 調査範囲 | 信託・負担付遺贈・負担付死因贈与の役割、見積項目、動物愛護管理法、自治体の引取りと拒否要件、最新の犬猫引取り・処分統計 |
| 主な情報源 | 環境省、e-Gov法令検索(民法・信託法・動物愛護管理法)、日本公証人連合会 |
| 未調査項目 | 個別の契約設計・税務、各自治体の死亡・入院時対応、民間団体の運営・財務、ペットの種類別の将来飼育費 |