おひとりさまの終活とは
配偶者や子どもがいない、あるいは頼れる親族が身近にいない方にとって、終活は「自分の意思を誰かに託す仕組みづくり」となる。
65歳以上の人がいる単独世帯は903万1,000世帯(2024年)である。国立社会保障・人口問題研究所は、2050年には65歳以上男性の26.1%、女性の29.3%が一人暮らしになると推計している。
おひとりさまが直面する3つのリスク
1. 判断能力が低下したときの財産管理
認知症等で契約内容を理解・判断する能力が不足すると、銀行口座の解約、不動産の売却、施設の入所契約といった法律行為を本人だけで進めることが難しくなる。本人を代理する権限を持つ人がいなければ、必要な手続きが止まることがある。
2. 死後の手続きを行う人がいない
亡くなった後の手続き(死亡届、葬儀・火葬の手配、公共料金の解約、賃貸住宅の明け渡し等)は、通常は遺族等が行う。身寄りがない場合、これらの手続きを誰が行うかが問題になる。なお、死後事務委任契約を結んだだけで受任者に死亡届の届出資格が生じるわけではないため、法定の届出資格者が届書を作成し、受任者が使者として提出する方法などを市区町村に確認する。
3. 財産の行き先が不明になる
相続人がいない場合は、相続財産清算人による債権者・受遺者への支払いや、家庭裁判所が認めた特別縁故者への財産分与を経て、残った財産が最終的に国庫へ引き継がれる。お世話になった人や団体に確実に遺贈したい場合は、遺言書で遺贈先を指定する。
4つの備えと役割
おひとりさまの終活では、以下の4つの制度・ツールを組み合わせて使うことが多い。
| 備え | 対応するリスク | 効力の期間 |
|---|---|---|
| 遺言書 | 財産の行き先 | 死亡後 |
| 死後事務委任契約 | 死後の手続き | 死亡後 |
| 任意後見契約 | 判断能力低下後の財産管理・身上監護 | 判断能力低下〜死亡 |
| エンディングノート | 情報の整理・意思の記録 | 生前(法的効力なし) |
1. 遺言書 — 財産の行き先を決める
相続人がいない場合、清算後に残った財産は最終的に国庫へ引き継がれる。遺言書で遺贈先(個人・団体・自治体等)を指定できる。
- 公的な手数料: 自筆証書遺言の法務局保管申請は1通3,900円。公正証書遺言は各相続人・受遺者が受ける財産価額ごとに公証人手数料を計算し、1通の目的価額合計が1億円以下なら遺言加算13,000円が加わる。正本・謄本の交付、出張等は別途
- 方式の選択: 公正証書遺言のほか、法務局で保管した自筆証書遺言も家庭裁判所の検認は不要。法務局は形式を外形的に確認するが、内容の有効性までは審査しないため、資産・遺贈先・執行方法に応じて選ぶ
- 遺言執行者の指定: 遺言書の中で遺言執行者を指定しておくことで、確実に遺言内容を実現できる
→ 詳しくは遺言書の種類と書き方を参照
2. 死後事務委任契約 — 葬儀・届出・契約解約を任せる
遺言書は主に財産の処分を指定するものであり、葬儀の手配や公共料金の解約といった「事務手続き」を受任者に任せるには、死後事務委任契約を組み合わせる方法がある。提供主体と対応範囲は地域・事業者ごとに異なる。
- 公的な手数料: 公正証書にする場合の公証人手数料は、目的価額に応じた基本手数料の2分の1。目的価額を算定できない場合は通常6,500円となり、正本・謄本の交付等が別途かかる
- 委任できる内容の例: 葬儀・火葬の手配、納骨、遺品整理、賃貸住宅の明け渡し、公共料金の解約、SNSアカウントの削除等。死亡届は届出資格の確認が必要
- 注意: 受任者報酬、預託金、実費は全国一律ではない。預託金の分別管理、契約終了時の精算、受任者が廃業・死亡した場合の引継ぎを確認する
→ 詳しくは死後事務委任契約を参照
3. 任意後見契約 — 判断能力低下後の備え
契約内容を理解・判断できるうちに「任意後見契約」を締結しておくことで、将来判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後に、指定した任意後見人が契約で定めた財産管理や生活・療養看護に関する法律行為(介護サービス契約、施設入所手続き等)を行える。任意後見人に医療行為への一般的な同意権が当然に与えられるわけではない。
- 公的な手数料: 任意後見契約の公証人手数料は1契約13,000円、登記嘱託手数料1,600円、登記の収入印紙2,600円のほか、正本・謄本、郵便等の実費
- 報酬: 任意後見人の報酬は契約で定め、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決める。全国一律の月額ではない
- 法定後見との違い: 法定後見は判断能力が低下した後に家族等が申し立てるもの。任意後見は本人が元気なうちに後見人を選んで契約する
- 受任者の選び方: 個人だけでなく法人を候補にできる。専門性、継続性、利益相反、報酬、引継ぎ体制を比較する
2026年改正法: 成年後見制度を見直す改正法は2026年6月に成立・公布されたが、成年後見制度に関する改正は2026年8月1日時点では未施行である。施行日は公布の日から2年6か月以内に政令で定められるため、現在の契約・申立てには現行制度が適用される。
→ 詳しくは成年後見制度の費用と手続きを参照
4. エンディングノート — 情報と意思を記録する
法的効力はないが、自分の情報(資産・保険・サービス契約の一覧)と希望(葬儀、医療・ケア等)を記録しておくことで、任意後見人や死後事務の受任者が事情を把握しやすくなる。医療・ケアの希望は、エンディングノートだけで常に法的拘束力が生じるものではない。
- 費用: 自作には公的な手数料はなく、自治体が様式を配布していることもある
- 記録すべき項目: 銀行口座・保険・年金の一覧、デジタルアカウントの一覧、葬儀の希望、遺品整理の方針、緊急連絡先
→ 詳しくはエンディングノートの書き方と項目を参照
費用の確認方法
専門職・事業者の報酬や預託金に全国一律の相場はない。公的な手数料と民間の報酬・実費を分け、次の項目を同じ条件で見積もる。
| 備え | 公的な手数料の主な確認先 | 個別見積もりで確認する項目 |
|---|---|---|
| 遺言書 | 法務局の保管申請手数料、公証人手数料令 | 文案作成、証人手配、遺言執行者報酬 |
| 死後事務委任契約 | 公正証書にする場合の公証人手数料 | 受任者報酬、預託金、葬儀・納骨・遺品整理等の実費 |
| 任意後見契約 | 公証人手数料、登記嘱託手数料、収入印紙 | 任意後見人報酬、任意後見監督人報酬、見守り・財産管理等の別契約 |
| エンディングノート | 原則として公的な手数料なし | 市販品や保管サービスを使う場合の料金 |
各制度の費用比較は成年後見・家族信託・死後事務委任の比較を参照。
自治体の支援制度
おひとりさま向けの相談、エンディングノート配布、葬儀・納骨や死後事務に関する支援を行う自治体・社会福祉協議会がある。ただし、制度名、対象年齢、所得・資産要件、居住期間、預託金、支援範囲は地域ごとに異なり、廃止・変更されることもある。居住自治体の高齢福祉担当窓口と地域の社会福祉協議会で現行制度を確認する。
各都市の詳しい支援制度は自治体別ページを参照。
注意点
- 契約能力があるうちに検討する: 任意後見契約・死後事務委任契約には、本人が契約内容を理解し判断できる能力が必要。認知症の診断名だけで一律に決まるものではないが、能力が不足すれば有効に締結できない
- 預託金の管理を確認する: 死後事務委任契約では預託金を預けるため、委任先が信託口座等で分別管理しているかを確認する
- 複数の制度を連携させる: 遺言書だけ、死後事務委任契約だけではカバーしきれない。必要な備えを組み合わせて空白を減らし、それぞれの権限外となる事務は関係機関に確認する
- 定期的な見直し: 契約内容や記録した情報は、環境の変化(引っ越し、資産の増減等)に応じて見直す
- 身元保証サービスの選定: 身元保証を行う民間事業者の中には経営基盤が不安定なケースもある。消費者庁が注意喚起を行っている
出典・公式情報リンク
出典: 厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」(2026年8月閲覧)
出典: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(令和6年推計)」(2026年8月閲覧)
出典: 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A(相続財産清算人・特別縁故者)」(2026年8月閲覧)
出典: 法務省「死亡届」(2026年8月閲覧)
出典: 法務局「自筆証書遺言書保管制度について」(2026年8月閲覧)
出典: 日本公証人連合会「手数料」(2026年8月閲覧)
出典: 法務省「成年後見制度」(2026年8月閲覧)
出典: 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)」(2026年8月閲覧)
出典: 消費者庁「いわゆる『高齢者等終身サポート事業』の利用に関する注意点」(2026年8月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年8月1日 |
| 調査範囲 | おひとりさまの終活に必要な4つの制度(遺言書・死後事務委任契約・任意後見契約・エンディングノート)の現行制度、公的手数料、組み合わせ、2026年改正法の施行状況 |
| 主な情報源 | 厚生労働省、国立社会保障・人口問題研究所、法務省・法務局、裁判所、日本公証人連合会、消費者庁 |
| 未調査項目 | 個別事業者の報酬・預託金、各自治体・社会福祉協議会の最新の対象要件と支援メニュー |