概要
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方の財産管理と身上監護を法的に支援する制度。民法に基づく「法定後見」と、任意後見契約に関する法律に基づく「任意後見」の2系統がある。身上監護には介護・医療サービスの契約や費用の支払いが含まれるが、医療行為そのものへの同意権が一般的に付与されるわけではない。
法定後見は、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する制度。任意後見は、本人が元気なうちに後見人となる人を自分で選び、公正証書で契約しておく制度。
後見等は本人の死亡で終了するのが原則で、葬儀、納骨、契約解約など広範な死後事務を任せるには死後事務委任契約等を別に準備する。ただし、法定の成年後見人には例外があり、相続人が相続財産を管理できるまでの間、一定の財産保存、弁済期が来た債務の支払いを行える。家庭裁判所の許可を得れば火葬・埋葬契約(葬儀契約は含まれない)などの限定的な死後事務も行える場合がある。
2026年6月公布の民法等改正法は、現行の後見・保佐を廃止して補助に一本化し、必要な期間・範囲で権限を付与・終了できる仕組みなどを定めた。ただし施行日は公布から2年6か月以内の政令指定日で、2026年8月1日時点では未施行。以下は施行前の現行制度を中心に記載する。
選択肢一覧
法定後見の3類型
| 類型 | 対象者 | 支援者 | 支援の範囲 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力がほとんどない方 | 成年後見人 | 財産に関する法律行為の代理権・取消権(日用品の購入を除く) |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 | 保佐人 | 民法13条1項に定める行為の同意権・取消権。申立てにより代理権の追加可 |
| 補助 | 判断能力が不十分な方 | 補助人 | 申立てにより特定の行為について同意権・取消権・代理権を付与 |
法定後見と任意後見の比較
| 法定後見 | 任意後見 | |
|---|---|---|
| 利用時期 | 判断能力が低下した後 | 判断能力があるうちに契約、低下後に発効 |
| 後見人の選び方 | 家庭裁判所が選任(本人・家族の希望は考慮されるが確約なし) | 本人が自分で選ぶ |
| 契約の方式 | 家庭裁判所への申立て | 公正証書(必須) |
| 監督 | 家庭裁判所 | 任意後見監督人(家庭裁判所が選任) |
| 取消権 | あり | なし |
| 発効条件 | 家庭裁判所の審判 | 家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時 |
関連制度との比較
| 成年後見 | 家族信託 | 遺言書 | |
|---|---|---|---|
| 目的 | 判断能力低下時の財産管理・身上監護 | 財産管理・承継 | 死後の財産処分 |
| 効力の時期 | 判断能力低下後〜死亡 | 契約締結時〜(信託契約による) | 死後 |
| 裁判所の関与 | あり(必須) | なし | なし(検認は必要) |
| 身上監護 | あり | なし | なし |
| 不動産の処分 | 家庭裁判所の許可が必要(居住用) | 信託契約の範囲内で可能 | 遺言執行者が行う |
家族信託の詳細は家族信託(民事信託)の費用と手続きを参照。遺言書については遺言書の種類と書き方を参照。3つの制度の費用・対応範囲の詳しい比較は成年後見・家族信託・死後事務委任の比較にまとめている。
身寄りのない方の場合、任意後見契約と死後事務委任契約を組み合わせることで、判断能力低下から死後の手続きまで一貫してカバーできる。詳しくはおひとりさまの終活ガイドを参照。
費用の相場
法定後見の申立て費用
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円(後見・保佐・補助共通) |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 予納郵便切手 | 管轄家庭裁判所所定の額 |
| 鑑定費用 | 裁判所が鑑定を実施する場合の個別見積額 |
| 診断書作成費用 | 医療機関所定の額 |
鑑定は必ず行われるわけではなく、裁判所が必要と判断した場合に実施される。
後見人の報酬
後見人・後見監督人の報酬は自動的に月額で決まるものではない。本人の財産から報酬を受けるには家庭裁判所へ報酬付与を申し立て、裁判所が管理財産、事務内容、期間等を考慮して個別に決定する。各地の裁判所が公表する参考資料はあくまで目安で、全国一律の公定月額ではない。特別な事務を行った場合は付加報酬が認められることがある。
任意後見の費用
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 公正証書作成手数料 | 13,000円(1契約) |
| 登記嘱託手数料 | 1,600円 |
| 登記に必要な収入印紙 | 2,600円 |
| 任意後見監督人の報酬 | 家庭裁判所が個別に決定 |
紙・電磁的記録の交付手数料、郵送料等が別途かかる。任意後見契約の内容検討を専門家へ依頼する場合の報酬に全国一律の公定価格はない。
手続きの流れ
法定後見の申立て
- 申立権者の確認: 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市区町村長(身寄りのない方の場合)が申立てできる
- 家庭裁判所への相談: 本人の住所地を管轄する家庭裁判所に事前相談する
- 診断書の取得: 本人の判断能力に関する医師の診断書を取得する
- 申立書類の準備: 申立書、診断書、本人の戸籍謄本、住民票、登記されていないことの証明書、財産目録、収支報告書など
- 申立て: 家庭裁判所に書類を提出し、申立手数料を納める
- 審理: 裁判所が本人の状況を調査し、必要に応じて鑑定を行う。審理期間は事案・管轄裁判所・不足書類の有無により異なる
- 審判: 裁判所が後見人を選任し、審判を行う
- 登記: 法務局で後見登記が行われる
- 後見事務の開始: 後見人が財産目録を作成し、財産管理と身上監護を開始する
任意後見の手続き
- 後見人となる人を決める: 信頼できる家族・親族、または専門家(弁護士・司法書士等)を選ぶ
- 契約内容を決める: 委任する事務の範囲(財産管理の内容、身上監護の内容)、報酬などを協議する
- 公正証書で契約を作成: 公証役場で任意後見契約公正証書を作成する(任意後見契約は公正証書でなければ無効)
- 登記: 公証人が法務局に嘱託して任意後見契約が登記される
- (判断能力低下後)任意後見監督人の選任申立て: 本人の判断能力が低下した時点で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てる
- 任意後見の発効: 家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が生じる
必要書類(法定後見の申立て)
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| 後見開始等の申立書 | 家庭裁判所の書式 |
| 本人の戸籍謄本 | — |
| 本人の住民票または戸籍附票 | — |
| 後見人候補者の住民票または戸籍附票 | 候補者がいる場合 |
| 診断書 | 家庭裁判所の定める書式 |
| 登記されていないことの証明書 | 法務局で取得 |
| 本人の財産に関する資料 | 預貯金通帳のコピー、不動産登記事項証明書等 |
| 本人の収支に関する資料 | 年金額通知書、施設費用の領収書等 |
自治体の支援制度
成年後見制度利用支援事業
多くの自治体が、低所得者や身寄りのない方を対象に、成年後見制度の利用を支援する事業を実施している。
- 申立て費用の助成: 申立手数料、鑑定費用、診断書作成費用などの一部または全部を助成
- 後見人報酬の助成: 専門職後見人の報酬(月額)の一部を助成。対象は生活保護受給者や住民税非課税世帯が中心
- 市区町村長申立て: 身寄りのない方や、虐待を受けている方について、市区町村長が申立人となることができる(老人福祉法第32条等)
成年後見センター・権利擁護センター
- 一部の自治体では、社会福祉協議会等に「成年後見センター」や「権利擁護センター」を設置し、制度の利用に関する相談・支援を行っている
- 後見人候補者の紹介(市民後見人バンク等)を行う自治体もある
- 法テラス(日本司法支援センター)では、資力要件を満たす方に対し、弁護士・司法書士費用の立替制度がある
注意点・よくあるトラブル
- 後見人は裁判所が選ぶ: 法定後見では、家族が後見人候補者を希望しても、裁判所が専門職(弁護士・司法書士等)を選任する場合がある。特に管理財産額が大きい場合や親族間に対立がある場合に多い
- 現行制度では一度開始すると原則として終了しない: 法定後見は本人の判断能力が回復しない限り、死亡するまで継続する。報酬付与が認められる場合は継続期間に応じた負担が生じる。2026年公布の改正法は終了要件を見直すが、施行前は現行制度が適用される
- 財産の処分に制限がある: 後見人が本人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要。投機的な資産運用も認められない
- 後見人の不正: 後見人による本人の財産の横領が社会問題となっている。家庭裁判所は後見監督人の選任や、後見制度支援信託・支援預貯金の利用を推進している
- 任意後見は監督人選任まで効力がない: 任意後見契約を締結しても、家庭裁判所が任意後見監督人を選任するまでは効力が生じない。判断能力が低下した際に速やかに申立てる体制を整えておく必要がある
- 成立済み改正法の施行待ち: 2026年6月公布の改正法は、法定後見を補助へ一本化し、本人の必要に応じた代理権・同意権等の付与、必要がなくなった場合の終了、任意後見監督人を選任しない例外などを定めた。施行日は政令で定められるため、利用時点の施行状況を法務省・裁判所で確認する
※ この記事は法的助言ではありません。具体的な手続きは弁護士・司法書士・家庭裁判所にご相談ください。
調べてみて気づいたこと
現行の成年後見制度では、本人の判断能力が回復しない限り、法定後見は原則として死亡まで続く。報酬額は家庭裁判所が事案ごとに決めるため、利用前に全国一律の総額を確定することはできない。
「必要な期間・範囲に限定して利用できる制度」への見直しは検討段階を終え、2026年6月に改正法が成立・公布された。一方、施行までは現行の3類型と任意後見監督人必置の仕組みが続くため、成立日と施行日を混同しないことが重要となる。
申立手数料800円と登記手数料2,600円のほか、郵便切手、診断書、必要な場合の鑑定等の費用がかかる。額は管轄裁判所・医療機関・事案で異なる。自治体によっては申立費用や報酬の助成制度があり、市区町村長申立ての仕組みもある。
出典・公式情報リンク
- 出典: 法務省「成年後見制度〜成年後見登記制度〜」(2026年8月閲覧)
- 出典: 法務省「成年後見人等の権限の見直し」(2026年8月閲覧)
- 出典: 裁判所「成年後見制度」(2026年8月閲覧)
- 出典: 裁判所「成年被後見人の死亡後の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為についての許可」(2026年8月閲覧)
- 出典: 日本公証人連合会「手数料」(2026年8月閲覧)
- 出典: 法務省「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)について」(2026年8月閲覧)
- 出典: 裁判所「成年後見関係事件の概況」(2026年8月閲覧)
- 出典: 厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(2026年8月閲覧)
- 出典: 厚生労働省「成年後見制度利用促進」(2026年8月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026-08-01 |
| 調査範囲 | 現行の法定後見3類型と任意後見、法定費用・報酬決定、医療同意、限定的な死後事務、自治体支援、2026年公布・未施行の制度改正 |
| 主な情報源 | 法務省、裁判所、厚生労働省 |
| 未調査項目 | 各自治体の成年後見制度利用支援事業の具体的な助成額比較、市民後見人の養成状況、改正法の施行日・政省令・裁判所実務 |