3つの制度の概要
認知症や判断能力の低下、死後の手続きに備える制度として、成年後見制度・家族信託・死後事務委任契約の3つがある。それぞれ目的と対応範囲が異なり、状況に応じて組み合わせて使うことが多い。
2026年6月に成年後見制度を補助へ一本化する民法等改正法が公布されたが、施行日は公布から2年6か月以内の政令指定日で、2026年8月1日現在は未施行。本比較の成年後見欄は、施行前の現行制度を基準とする。
基本比較表
| 項目 | 成年後見制度 | 家族信託(民事信託) | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 判断能力が低下した方の財産管理・身上監護 | 信頼できる家族に財産管理を託す | 死後の事務手続きを第三者に委任する |
| 効力の開始 | 法定後見: 判断能力低下後 / 任意後見: 判断能力低下後に家裁の監督開始 | 契約締結時(元気なうちから) | 本人の死亡後 |
| 効力の終了 | 本人の死亡 | 契約で定めた期間(本人死亡後も継続可能) | 委任事務の完了 |
| 判断能力 | 低下後に利用(法定後見)/ 元気なうちに契約(任意後見) | 元気なうちに契約が必要 | 元気なうちに契約が必要 |
| 裁判所の関与 | あり(申立て・監督) | なし | なし(公正証書は推奨) |
| 対象財産 | 成年後見人は原則全財産。保佐・補助は法定または審判で付与された範囲、任意後見は契約で定めた代理事務 | 信託財産として指定したもの | 原則として財産の承継先指定は対象外(遺言等の役割)。事務実施のための支払い・預託は契約で定める |
| 死後の対応 | 本人死亡で終了が原則。成年後見人だけは民法873条の2の限定的な保存・債務弁済・許可を得た火葬埋葬等が可能な場合あり | 可能(受益者連続型で次の受益者へ) | 可能(これが主目的) |
| 身上監護 | 介護・医療サービスの契約や支払い等。医療行為への同意権は一般にない | なし | なし |
| 財産の運用・処分 | 本人の利益・必要性に基づいて管理。投機目的の運用は不可 | 信託目的・契約の範囲で売却・建替え・運用等 | 対象外 |
費用の比較
| 費用項目 | 成年後見制度 | 家族信託 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|---|
| 法定・公定費用 | 法定後見は申立手数料800円、登記手数料2,600円、郵便切手・診断書・必要時の鑑定等。任意後見公正証書は13,000円、登記嘱託1,600円、登記印紙2,600円等 | 不動産信託登記は土地0.3%(2029年3月31日まで)・建物0.4%。公正証書は目的価額で算定 | 公正証書は原則として目的価額による基本手数料の50%(算定不能なら通常6,500円) |
| 個別に決まる費用 | 後見人・監督人報酬は家庭裁判所が個別決定。専門家への契約作成報酬等は個別見積もり | 契約設計・登記報酬、受託者・監督人等の報酬は契約・見積もりによる | 受任者報酬、葬儀等実費、預託金は業務範囲により個別契約 |
| 長期総額 | 期間・裁判所の報酬決定等で変動 | 契約期間・報酬・管理事務で変動 | 実施事務・実費精算で変動 |
各制度の費用の詳細は、成年後見制度の費用と手続き、家族信託の費用と手続き、死後事務委任契約を参照。
メリット・デメリットの比較
成年後見制度
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 判断能力低下後でも利用開始可能(法定後見) | 裁判所の手続きが必要で時間がかかる |
| 身上監護(介護・医療サービスの契約・支払い)も対応 | 医療行為への同意権は一般にない |
| 法的な保護が強い(取消権の範囲は成年後見・保佐・補助で異なる。任意後見には取消権なし) | 財産の積極運用ができない(本人保護が原則) |
| 自治体の申立費用助成がある場合も | 後見人を自由に選べない場合がある(法定後見) |
家族信託
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 元気なうちから柔軟な財産管理が可能 | 判断能力低下後は契約できない |
| 裁判所の継続的関与がない | 契約設計・公証・登記等の費用は個別算定 |
| 不動産の売却・建替え等の積極運用が可能 | 身上監護はカバーしない |
| 受託者報酬を無報酬と定めることも可能 | 受託者となる信頼できる人と継続的な管理体制が必要 |
| 受益者連続型で二次相続まで指定可能 | 税務申告の手間が増える場合がある |
死後事務委任契約
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 契約した範囲の死後事務を受任者に依頼できる | 報酬・実費・預託金を個別に準備する必要がある |
| 身寄りがない方でも葬儀・納骨を任せられる | 委任先の信頼性を見極める必要がある |
| 遺言では対応できない事務手続きをカバー | 預託金の管理リスク(委任先の破綻等) |
| 自治体の支援事業を利用できる場合がある | 契約内容の変更に手間がかかる場合がある |
状況別の組み合わせパターン
おひとりさま(配偶者・子なし)
| 備え | 推奨制度 | 理由 |
|---|---|---|
| 判断能力低下への備え | 任意後見契約 | 信頼できる家族がいない場合、専門職に依頼 |
| 死後の手続き | 死後事務委任契約 | 葬儀・納骨・各機関が認める手続き・契約解約を委任。死亡届の届出人資格は戸籍法による |
| 財産の行き先 | 遺言書 | 相続人不存在の場合、相続財産清算・特別縁故者への分与等を経て残余財産が国庫帰属となり得るため |
→ 詳しくはおひとりさまの終活ガイドを参照
認知症への備え(家族あり)
| 備え | 推奨制度 | 理由 |
|---|---|---|
| 不動産・金銭の管理 | 家族信託 | 信託した財産を契約範囲で管理可能。信託外財産は対象外 |
| 身上監護(介護手続き等) | 任意後見契約 | 家族信託ではカバーできない領域 |
| 財産の承継 | 遺言書 | 信託財産以外の承継先を指定 |
相続対策が主目的
| 備え | 推奨制度 | 理由 |
|---|---|---|
| 財産の承継先指定 | 遺言書 | 最も基本的な相続対策 |
| 二次相続まで指定 | 家族信託(受益者連続型) | 遺言では一次相続までしか指定できない |
| 相続人間の紛争予防 | 遺言書(公正証書) | 法的な証拠力が高い |
遺言書の詳細は遺言書の種類と書き方を参照。
3制度の対応範囲まとめ
| 場面 | 成年後見 | 家族信託 | 死後事務委任 | 遺言書 |
|---|---|---|---|---|
| 元気なうちの財産管理 | × | ○ | × | × |
| 判断能力低下後の財産管理 | ○ | ○ | × | × |
| 介護・医療サービスの契約・支払い | ○(医療行為への同意は別) | × | × | × |
| 不動産の売却・運用 | △(本人の利益・必要性による。居住用不動産の処分は許可が必要) | ○(信託目的・契約の範囲) | × | × |
| 死後の葬儀・納骨 | △(成年後見人の許可を得た火葬・埋葬等に限定) | × | ○ | × |
| 死後の届出・契約解約 | △(成年後見人の法定範囲のみ) | × | ○(機関・法令上の資格による) | × |
| 財産の承継先指定 | × | ○ | × | ○ |
| 二次相続の指定 | × | ○ | × | × |
比べて見えたこと
3制度を並べると、どの制度も単独では全部をカバーしない。成年後見は判断能力低下後の保護に強く、成年後見人には限定的な死後権限もあるが、広範な葬儀・納骨・契約整理を当然に扱えるわけではない。家族信託は契約で指定した財産の管理に限られ、死後事務委任は死後の事務に特化する。
費用の構造も異なる。成年後見の報酬は家庭裁判所、家族信託の報酬は契約、死後事務委任の報酬・預託金は受任者との契約で決まる。全国一律の10年総額で優劣をつけず、必要な権限と対象財産を先に決め、同じ業務範囲で個別見積もりを比較する必要がある。
「組み合わせパターン」を整理してみると、おひとりさまの場合は3制度すべて+遺言書が必要になりうるのに対し、信頼できる家族がいる場合は家族信託+遺言書の2つで大部分をカバーできる。家族構成によって必要な制度の組み合わせが大きく変わることが、比較表から見えてくる。
出典・公式情報リンク
出典: 法務省「成年後見制度」(2026年8月閲覧)
出典: 裁判所「成年後見制度について」(2026年8月閲覧)
出典: 裁判所「成年被後見人の死亡後の火葬・埋葬等の許可」(2026年8月閲覧)
出典: 法務省「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)について」(2026年8月閲覧)
出典: e-Gov法令検索「信託法」(2026年8月閲覧)
出典: 厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援」(2026年8月閲覧)
出典: 日本公証人連合会「任意後見契約」(2026年8月閲覧)
出典: 日本公証人連合会「手数料」(2026年8月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年8月1日 |
| 調査範囲 | 現行の成年後見・家族信託・死後事務委任の権限、医療同意、限定的死後事務、法定費用、2026年公布・未施行の成年後見改正 |
| 主な情報源 | 法務省、裁判所、日本公証人連合会、各制度の個別記事 |
| 未調査項目 | 各制度の利用件数統計、改正成年後見法の施行日・政省令・実務運用 |