概要
親が亡くなったあと、誰も住まなくなった実家をどうするか。いわゆる「実家じまい」は、相続・不動産・税金が絡む複合的な手続きになる。
総務省の「住宅・土地統計調査」(2023年)によると、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%に達している。空き家を放置すると、固定資産税の負担が続くだけでなく、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2023年改正)により、管理が不十分な空き家は行政の指導や固定資産税の優遇解除の対象になる。
また、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しなければ、10万円以下の過料が科される可能性がある(不動産登記法第76条の2)。
この記事では、実家じまいの選択肢、法定費用と個別見積もりの区別、手続きの流れ、自治体制度の確認方法を整理する。
家の中の荷物(家財・遺品)の片付けについては「遺品整理の費用と手続き」、存命中に整理を進める場合は「生前整理の進め方」を参照。認知症になる前に不動産の管理権限を信託しておく方法は「家族信託(民事信託)の費用と手続き」にまとめている。
※ この記事は法的助言ではありません。具体的な手続きは弁護士・司法書士・税理士にご相談ください。
選択肢一覧
実家じまいの主な選択肢を整理する。
| 選択肢 | 概要 | 主に確認する費用・条件 | 判断材料 |
|---|---|---|---|
| 建物付きで売却 | 現状の土地・建物を売る | 査定、媒介報酬、境界・測量、契約不適合、税 | 建物利用の可能性と需要 |
| 解体後に売却 | 建物を解体し土地を売る | 解体、石綿、残置物、滅失登記、解体後の税 | 現状売却と更地売却の手取り比較 |
| 賃貸・活用 | 改修して貸す、駐車場等にする | 改修、管理、保険、法令適合、空室 | 需要、初期投資、継続管理 |
| 空き家バンク | 自治体等の仕組みで買い手・借り手を探す | 登録条件、媒介、改修、補助の事前申請 | 対象地域と物件要件 |
| 国庫帰属・寄付等を検討 | 土地の性質に応じ制度や受入先を確認 | 建物除去、審査、負担金、受入条件 | 相続土地国庫帰属制度は建物がある土地等を除外 |
| 相続放棄 | 家だけでなく相続人としての権利義務を放棄 | 家庭裁判所の期限・書類・費用 | 原則として自己のために相続開始を知った時から3か月 |
相続放棄は不動産だけを選んで放棄することはできず、すべての相続財産を放棄する手続きになる。詳細は「相続放棄・限定承認の手続きと費用」を参照。
費用を確認する順序
相続登記の費用
相続で不動産を取得した場合、法務局で相続登記(名義変更)が必要になる。2024年4月から義務化されている。
| 項目 | 確認方法 |
|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% |
| 戸籍・証明書 | 必要な通数と各発行機関の現行手数料を確認 |
| 司法書士等への依頼 | 報酬は自由化されているため、業務範囲をそろえて見積もりを比較 |
登録免許税には、一定の土地に関する免税措置が適用される場合がある。評価額だけで決めず、法務局・税務署や専門家に対象要件を確認する。
相続登記の詳しい手続きは「相続の基本手続き」を参照。
解体費用
構造別の解体費について、公的な全国一律の相場は確認できない。所在地、床面積、構造だけでなく、次の条件を各社が同じ前提で見積もっているかを比較する。
- 前面道路、重機の搬入、養生
- 家財・残置物と産業廃棄物の区分
- 石綿の事前調査、届出、除去
- 地中埋設物、基礎、浄化槽、井戸
- 樹木、塀、擁壁、隣家との距離
- 諸官庁への届出、建物滅失登記
- 追加工事の単価と発注前承認
解体工事の前に自治体の補助へ申請する必要がある場合があるため、契約・着工より先に確認する。
不動産仲介手数料
不動産を売却する場合の仲介手数料は、宅地建物取引業法第46条に基づく国土交通省告示で上限が定められている。
| 売却価格 | 仲介手数料の上限 |
|---|---|
| 200万円以下 | 売却価格の5%+消費税 |
| 200万円超〜400万円以下 | 売却価格の4%+2万円+消費税 |
| 400万円超 | 売却価格の3%+6万円+消費税 |
2024年7月1日以降、価格800万円以下の「低廉な空家等」の売買では、媒介に要する費用を勘案し、依頼者の一方から受け取れる上限を税込33万円とする特例がある。自動的に33万円となる制度ではなく、媒介契約時に上限の範囲内で説明を受け、報酬額を合意する。
譲渡所得税と3,000万円特別控除
相続した不動産を売却して利益(譲渡所得)が出ると、所得税・住民税が課税される。
| 所有期間 | 税率(所得税+住民税+復興特別所得税) |
|---|---|
| 5年以下(短期譲渡所得) | 約39.63% |
| 5年超(長期譲渡所得) | 約20.315% |
※ 所有期間は被相続人の取得日から通算できる。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除:
相続した空き家を売却した場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例がある(租税特別措置法第35条第3項)。2024年1月1日以後の譲渡で、その家屋・敷地等を取得した相続人が3人以上の場合は、1人当たり最高2,000万円となる。
主な要件:
- 被相続人が一人で居住していた家屋であること(老人ホーム入所後の場合も一定条件で適用可)
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること(旧耐震基準)
- 相続開始から譲渡まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと
- 譲渡価格が1億円以下であること
- 相続開始から3年後の12月31日までに譲渡すること
- 家屋を売る場合は耐震基準を満たすこと、または家屋を取り壊して敷地を売ること。2024年以後の譲渡には、一定の期限までに買主側で耐震改修・取壊しを行う場合を含む特例要件がある
適用期限: 2027年12月31日までの譲渡が対象。
要件と必要書類は多く、老人ホーム入所後、共有、他の特例との併用、譲渡後の工事では判断が変わる。売買契約前に、国税庁の最新チェック項目と税務署・税理士への確認を行う。
相続税の基本は「相続税の計算方法と節税対策」を参照。
空き家の維持管理費
売却や解体を決めるまでの間も、固定資産税・都市計画税、保険、通風・通水、草木、雪、害虫、設備、ライフライン等の費用が生じ得る。全国一律の金額ではないため、納税通知書、保険契約、直近の請求書、管理委託の見積書から、その物件固有の年間費用を作る。
家財処分の費用
解体や売却の前に家財(家具・家電・生活用品)を処分する必要がある。
家財の量、自治体の分別・持込み、家電リサイクル、危険物、買取、搬出経路で費用が変わる。部屋数だけの相場ではなく、処分品目と処分方法をそろえた見積書で比較する。
詳細は「遺品整理の費用と手続き」を参照。
手続きの流れ
Step 1: 相続の確定
遺言書がある場合はその内容に従い、ない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、不動産を誰が取得するかを決める。
詳しくは「相続の基本手続き」を参照。
Step 2: 相続登記(名義変更)
不動産の名義を被相続人から相続人に変更する。法務局に申請する。
必要書類は、法定相続、遺産分割、遺言、遺贈のどの原因で登記するかによって異なる。戸籍、住民票、遺産分割協議書・印鑑証明書、遺言書、固定資産評価額が分かる書類等のうち、どれが必要かを法務局の申請様式で確認する。「相続人全員の印鑑証明書」が常に必要というわけではない。
2024年4月以降は、相続で取得を知った日から3年以内に登記する義務がある。施行前(2024年3月以前)の相続については、2027年3月末が実質的な期限になる。
Step 3: 方針の決定
不動産の現状を把握し、処分方針を決める。
- 建物の状態を確認する(築年数、構造、損傷の有無)
- 不動産業者に査定を依頼する(通常は無料。複数社に依頼するのが一般的)
- 固定資産税の納税通知書で評価額を確認する
- 選択肢(売却・解体・賃貸・空き家バンク等)を比較して方針を決める
Step 4: 家財の整理・処分
建物内の荷物を片付ける。解体業者が一括で引き受ける場合もあるが、分離した方が費用を抑えられることが多い。
詳しくは「遺品整理の費用と手続き」を参照。
Step 5: 実行(選択肢別)
売却の場合:
- 不動産業者と媒介契約を締結
- 購入希望者と売買条件の交渉
- 売買契約の締結(手付金の受領)
- 残代金の決済・引き渡し・所有権移転登記
解体の場合:
- 複数の解体業者から見積もりを取る
- 建設リサイクル法、石綿障害予防規則・大気汚染防止法、自治体条例等の届出・調査を確認
- 解体工事の実施
- 建物滅失登記を法務局に申請(解体完了後1か月以内)
空き家バンクの場合:
- 自治体の窓口に相談
- 物件情報を登録(無料)
- 購入・賃借希望者とのマッチングを待つ
Step 6: 税務申告
不動産を売却して申告が必要な場合は、原則として譲渡年の翌年の確定申告期間に申告する。3,000万円(または2,000万円)特別控除を使う場合も、必要書類を添えて申告する。年ごとの受付日と個別の申告要否は国税庁で確認する。
自治体の支援制度
解体補助金
老朽危険家屋等の除却を補助する自治体があるが、全国一律の制度・補助率・上限額ではない。所在地、危険度、耐震性、所有者の所得・税滞納、工事業者、年度予算等の要件があり、交付決定前の契約・着工を対象外とする制度もある。解体業者との契約前に、物件所在地の市区町村へ次を確認する。
- 対象建物と申請者の要件
- 現地調査・危険度判定の要否
- 対象経費と対象外経費
- 契約・着工できる時期
- 受付期間、予算上限、完了期限
空き家バンク制度
自治体が運営する空き家の売買・賃貸のマッチングシステム。国土交通省は「全国版空き家・空き地バンク」を整備しており、全国の自治体の物件を横断的に検索できる。
- 登録料、媒介契約、調査・改修費の扱いは自治体・運営事業者ごとに確認
- 一部自治体では、空き家バンクを通じた売買・賃貸に対してリフォーム補助金の上乗せがある
- 通常の不動産市場では買い手がつきにくい地方の物件に向いている
その他の支援
- 耐震診断・耐震改修: 自治体によって対象建物、自己負担、申請時期が異なる
- 登記・法律相談: 法務局の手続案内や法テラス等には利用条件・予約方法がある
注意点・よくあるトラブル
- 固定資産税を単純に「6倍」と決めつけない: 住宅用地には課税標準の特例がある。特定空家等または管理不全空家等として市区町村の勧告を受けると、対象敷地が特例から除外され得るが、実際の税額は評価額、負担調整措置、都市計画税等で決まる
- 特定空き家の指定: 倒壊のおそれ、衛生上有害、景観を著しく損なう等に該当する空き家は、市区町村から「特定空き家等」に指定される。助言→指導→勧告→命令→行政代執行と段階的に措置が進む
- 解体と税の基準日を確認する: 建物を除却すると住宅用地特例の前提が変わる。税は1月1日の所有・利用状況等で判定されるため、所在地の市区町村税務担当へ確認する
- 相続放棄後の保存義務を広く言いすぎない: 2023年4月施行の民法第940条では、放棄時に相続財産を現に占有している人が、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、自己の財産と同一の注意で保存する。放棄者全員に一律の管理義務が続くわけではない
- 3,000万円特別控除の要件は厳格: 相続開始から3年後の12月31日までに売却を完了する必要がある。また、旧耐震基準の建物は耐震リフォーム済みまたは解体済みでなければ適用できない
- 解体業者に関するトラブル: 不法投棄、追加費用の後出し、アスベスト処理の不備が報告されている。建設業許可または解体工事業登録の確認、契約内容(追加費用の取り決め)の事前確認が重要
- 相続登記を放置するリスク: 相続登記をしないまま次の相続が発生すると、相続人が増えて権利関係が複雑になり、売却等の処分が困難になる
調べてみて気づいたこと
空き家対策は「処分方法」からではなく、登記期限、現に誰が管理しているか、建物と土地の状態、年間保有費、税特例の期限を一枚に整理するところから始めると漏れを減らせる。全国相場のない解体・管理費は、同じ工事範囲の見積もりで比較し、税制と補助制度は契約前に確認する必要がある。
出典・公式情報リンク
出典: 総務省統計局「住宅・土地統計調査」(2026年8月閲覧)
出典: 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の概要」(2026年8月閲覧)
出典: 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」(2026年8月閲覧)
出典: 法務省「相続土地国庫帰属制度について」(2026年8月閲覧)
出典: 国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(No.3306)(2026年8月閲覧)
出典: 国土交通省「不動産取引に関するお知らせ」(2026年8月閲覧)
出典: 国土交通省「全国版空き家・空き地バンク」(2026年8月閲覧)
出典: e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2026年8月閲覧)
出典: e-Gov法令検索「民法」(2026年8月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年8月1日 |
| 調査範囲 | 売却・解体・賃貸・空き家バンク・相続放棄・相続土地国庫帰属、相続登記義務、空き家譲渡特例、媒介報酬特例、自治体補助の確認順、相続放棄者の保存義務 |
| 主な情報源 | 国土交通省、総務省、法務省、国税庁、e-Gov法令検索 |
| 未調査項目 | 自治体別の補助、個別物件の解体・管理費、農地・借地権・共有・未登記建物、石綿、境界、税特例の個別判定 |